何かと話題のお米問題から考える。競争力強化と高付加価値化に必要な要素とは?

毎日のように報道で接するお米の問題ですが、今のような状況は短期的な要因だけで発生したものではなく、日本の農業が長い間抱えていた様々な課題が民間在庫減少で顕在化したものと思います。
お米問題に限ったことではなく、競争力の強化と高付加価値化を通じて、持続可能性を高めてゆくためのポイントを、お米問題を通じて整理してみました。

1.国内米価格の推移

たくさんの報道により皆様ご存じの通り、長きにわたり5kgで2000円前後で推移していたお米の価格が昨年の秋から急騰し、5kgで4500円くらいと約2倍になりました。
物の価格が決まる要因には一般的には以下のような要因が考えられます。

①需要と供給のバランス
②隣接市場の動向(隣接グレード品・類似商品・海外市場など)
③資材などコスト要因
④品質の優劣
⑤市場内のプレイヤーの動向
⑥為替相場
⑦技術要因
⑧政策要因
⑨心理要因

最近の5年の間には、多くの複雑な状況変化があり、米価格にも影響を与えていると思われます。
・新型コロナウイルスの影響
・ロシアのウクライナ侵攻
・世界的な物価上昇
・為替相場の変動
・インバウンド需要の上昇
・異常気象
・生産者の高齢化

2.日本国内の米の需給バランスを確認してみる

生産量・消費動向・在庫の話などが報道されますが、実数を整理してみました。
数値は農林水産省「米穀の取引に関する報告」に基づき、大雑把にザクっと丸めた数字です。
足元の需給バランスのイメージとして捉えてください。
・主食用米の国内生産量:680万トン
・民間在庫減少:44万トン(22~23年度以来の過去3年間の累計では70万トンの減少)
・需要量:700万トン
・備蓄補充用:20万トン(備蓄開始後5年経過後に飼料用などに備蓄米を転用処分するため)
・輸出量:4万トン
上記はこの1年間の数値ですが、過去3年間に、国内消費量の10%程度(1か月分以上)の在庫が減ったようです。これにより買い圧力が市場に強まったのかもしれません。

ご参考までに、ミニマムアクセス米として輸入されている77万トンは、飼料用や援助用に活用されているようです。

3.米の内外価格差

アメリカとの関税交渉のニュースを聞いて、「海外の米は安いのでは」と思い、通関統計から、日本が輸入した米の価格を調べてみました。

(2025年1月~4月実績値)
輸入元:アメリカ合衆国を例に取りました
輸入量:13万7千トン(精米)
輸入価格:133.5円(キログラムあたり)

同様に、日本から輸出された米の価格も調べてみました。
こちらも輸出通関実績からのデータです。

(2025年1月~4月実績値)
輸出先:アメリカ合衆国を例に取りました
輸出量:3千トン(精米)
輸出価格:315.6円(キログラムあたり)

日本からの輸出先のトップ10は以下の通りです。(1月~4月の財務省通関統計より精米を抽出)
国名      数量(トン)
香港      3225
アメリカ合衆国 2935
台湾      893
タイ      884
カナダ     752
シンガポール  569
オーストラリア 480
英国      280
スペイン    278
ドイツ     239

4.米問題への対応策に関する議論

昨今の米価格高騰を受け、米の需給バランス適正化に関する議論が活発になっています。主な論点を以下のように整理しました。

(1)供給側の論点:国内生産量の確保と安定化

  • 作付面積の確保:主食用米から他作物へ転換した農地をどう再転換させるか。耕作放棄地の解消・活用策。
  • 担い手の確保・育成:生産者の高齢化、後継者不足に対し、新規就農支援、法人化支援、スマート農業導入による省力化をどう進めるか。
  • 生産資材の高騰対策:肥料、燃料、農薬などの価格高騰に対し、生産者への支援や国産資材への転換、共同購入などをどう進めるか。
  • 単収(単位面積あたりの収穫量)の向上と安定化:技術開発・普及、多収性品種の開発・導入、栽培技術の向上、気候変動に強い品種への転換をどう進めるか。
  • 気候変動への適応:高温障害や豪雨・干ばつなどの自然災害リスクに対応するための技術開発、インフラ整備。
  • 生産調整(減反)政策の見直し: 現在の生産数量目標の妥当性。需要減少を見越した過度な減産が、現状の供給不足を招いていないか。より柔軟で市場実勢を反映した生産調整システムの構築。
  • 備蓄米制度の運用: 備蓄米の放出基準や量の妥当性。緊急時だけでなく、価格急騰時の市場安定機能としての役割をどう考えるか。

(2) 需要側の論点:国内消費の維持と多様な需要への対応

  • 国内消費の動向:人口減少と食生活の多様化。
  • 中食・外食産業の需要:業務用米の安定供給体制、価格変動リスクへの対応。
  • 輸出戦略:海外市場における日本産米のブランド力向上、輸出拡大に向けた課題(検疫、輸送コスト、価格競争力)。
  • 米粉や飼料用米など新規用途:加工用途への利用拡大に向けた技術開発、用途別生産の推進。
  • インバウンド需要の拡大と取り込み。

(3)流通・価格形成の論点:効率化と透明性の向上

  • 流通構造の課題:多段階な流通経路と中間マージン
  • 情報伝達の非対称性:生産者、卸、小売、消費者の間での需給情報、価格情報の透明性確保。
  • 価格形成メカニズム:現状の価格形成プロセスの妥当性。より市場実勢を反映する仕組み
  • 産地・品種による価格差:需要に応じたきめ細やかな価格設定と情報開示。
  • 情報の収集・分析・提供体制:需給見通しの精度向上

(4)政策・制度的支援の論点:食料安全保障と持続可能性

  • 食料安全保障の観点:国内生産の重要性の再認識と、そのための支援策のあり方。
  • 生産者への経営安定支援:収入保険制度などのセーフティネットの充実。価格変動リスクをヘッジする仕組みの導入支援。
  • 消費者への影響と対策:価格高騰が家計に与える影響への配慮。
  • 持続可能な米生産システムへの転換:環境保全型農業への支援。スマート農業技術の導入による生産効率向上と環境負荷軽減の両立。
  • 輸入米との関係:ミニマムアクセス米の運用方針。

これらの論点は相互に関連しており、短期的な価格安定策を行いながら、中長期的な生産構造・消費構造の改革、食料安全保障の確立といった視点を持ちながら、総合的な対策を講じる必要がありそうです。

5.高付加価値化に向けての取り組み

論点の中に、輸出に関するものがあります。前出の内外価格差から見ると、同一の市場で同条件で戦う事は、コスト差が大きく簡単ではなさそうです。米問題への対応で示された日本の米の持続可能性強化を実現しつつ、日本のお米の極めて高い品質を今よりも効果的に、戦略的にアピールしてゆく事で、強い農業が実現できる事を夢みます。

(1)圧倒的な「品質」と「美味しさ」の追求

  • 食味の向上:甘み、香り、粘り、喉ごし、冷めても美味しいなど、日本米ならではの優れた食味をさらに追求する。
  • 品種の特性: 各品種が持つ個性(例:コシヒカリの粘り、ササニシキのあっさり感、つや姫のバランスの良さなど)を明確にし、用途提案に繋げる。
  • 栽培技術:有機栽培、特別栽培、減農薬・減化学肥料栽培など、手間をかけた栽培方法による安全・安心への訴求。
  • 精米技術:高度な精米技術による鮮度保持、食味を最大限に引き出す搗き方の工夫。

(2)多様なニーズに応える「品種」と「機能性」

  • 特定用途米:寿司用(シャリに適した米)、リゾット用、カレー用など、料理に合わせた最適な品種を提案。
  • 健康志向米:低GI米、高アミロース米、巨大胚芽米、栄養強化米など、機能性を持つ米の開発・提案。
  • 輸出先国の嗜好に合わせた品種:現地の食文化や好まれる食感を研究し、適した品種を選定または開発。

(3)安心・安全への「信頼性」の確立

  • トレーサビリティ:生産から流通までの履歴を追跡可能にし、透明性を高める。
  • 認証制度の活用:有機JAS認証、JGAP/ASIAGAPなどの農業生産工程管理認証、輸出先国が求める認証(ハラール認証、コーシャ認証など)の取得。
  • 残留農薬検査の徹底:輸出先国の基準をクリアする厳格な検査体制。

(4)「ブランド力」と「ストーリー性」の構築

  • 産地ブランドの強化:魚沼、新潟、秋田、飯山など、既存の有名産地のブランド力をさらに高めるとともに、新たな産地ブランドを育成。
  • 生産者の顔が見える米:生産者のこだわり、栽培方法、米作りへの情熱などのストーリーを伝え、共感を呼ぶ。
  • 希少性・限定性の演出:特定の生産者、特定の栽培方法、収穫量が少ない品種など、希少価値をアピール。

(5)海外市場に合わせた「商品開発」と「パッケージ」

  • 少量パッケージ:海外の小家族や単身世帯、トライアル購入を促すための少量パッケージ。
  • デザイン性の高いパッケージ:日本らしさ、高級感、品質の良さが伝わる魅力的なデザインと多言語表記。
  • 利便性の高い商品:無洗米、炊飯済みパックご飯、冷凍米飯、米粉、米麺、米から作られたスナック菓子やベビーフードなど、加工品の開発。

(6)日本の「文化」との連携

  • 日本食とのペアリング提案:寿司、天ぷら、すき焼きなどの代表的な日本食との相性の良さをアピール。
  • レシピ提案:現地の食材で手軽に作れる日本米を使ったレシピを提案し、家庭での消費を促進。
  • 日本酒や日本の調味料とのセット提案:日本の食文化全体を体験できるような提案。

(7)効果的な「マーケティング」と「プロモーション」

  • ターゲット市場の明確化:富裕層、健康志向層、日本食レストラン、日本文化に関心のある層など、ターゲットを絞ったアプローチ。
  • 体験型プロモーション:試食会、料理教室、産地ツアーなどを通じて、日本米の美味しさや魅力を直接体験してもらう。
  • デジタルマーケティングの活用: SNS、インフルエンサーマーケティング、オンラインショップなどを活用した情報発信と販売。
  • 海外の展示会・商談会への出展: 現地のバイヤーや消費者に直接アピールする機会の活用。

(8)適切な「流通チャネル」の確保と「品質管理」

  • 高級スーパー、日本食材専門店、ECサイトなど、ターゲット層にリーチできる販売チャネルの開拓。
  • レストランへの卸:特に日本食レストランや高級レストランとの連携強化。
  • 輸出時の品質保持:定温輸送(リーファーコンテナ)、適切な梱包など、輸送・保管時の品質劣化を防ぐ対策。

(9)「生産技術」の革新と「持続可能性」への配慮

  • スマート農業の導入:省力化、高品質化、安定生産に繋がる技術の活用。
  • 環境保全型農業:環境負荷の低減に配慮した栽培方法の推進と、それを価値として訴求。
  • 地域社会への貢献:農業を通じた地域活性化のストーリーも付加価値になり得る。

これらの要素を複合的に組み合わせ、戦略的に取り組むことが、日本米の高付加価値化と輸出拡大に繋がります。一朝一夕に実現できるものではありませんが、継続的な努力と工夫が不可欠に感じます。

6.最後に

ビーズクリエイトはWebマーケティングサービスを提供する会社です。ホームページなどは目で確認できますが、本当の価値は、目に見えないWebの世界でのユーザー評価の獲得や競合優位性の確立です。
最後の高付加価値化のパートでまとめたような高付加価値化の要素の構築を、私たちのサービスを通じてクライアントの方々が実現できたら良いなと思っています。

Webに関するお問い合わせ、ご相談はホームページの問い合わせフォームまでどうぞ。
https://www.bscre8.com/contact/

一緒に働きたい方は、以下の採用情報をご確認してください。
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